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大津地方裁判所 平成6年(ワ)615号 判決 1997年8月21日

主文

一  被告森本興産株式会社は、原告橋本敬一に対し金一二九万四二五一円、原告野崎行雄に対し金六九万八六七六円及びこれらに対する一九九五年一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれに支払え。

二  原告らの被告森本興産株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  原告らの被告大都工業株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の五分の四と被告森本興産株式会社に生じた費用の五分の四及び被告大都工業株式会社に生じた費用を原告らの負担とし、原告らに生じたその余の費用と被告森本興産株式会社に生じたその余の費用を同被告の負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告らは連帯して、原告橋本敬一に対して金五一五万円、原告野崎行雄に対して金一五五万八〇〇〇円、及びこれらに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、別紙物件目録記載の建物の東面につき、別紙第一図面赤線表示のとおり二階ないし五階まで及び同建物の西面につき別紙第二図面赤線表示のとおり四階ないし七階まで、それぞれ高さ二メートルの目隠しを設置せよ。

三  第一項に限り仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、原告らが、別紙物件目録記載の建物(以下、「本件マンション」という。)を建設した被告森本興産株式会社(以下、「被告森本興産」という。)及びその建築工事を請け負った被告大都工業株式会社(以下、被告大都工業」という。)に対し、本件マンションの建築工事による騒音等及び建築後の本件マンションによる騒音の増大やプライバシー侵害等による不法行為責任に基づき、慰謝料等の損害賠償及び本件マンションの目隠しの設置を求める事案である。

一  争いのない事実

1 被告森本興産は、大津市松原町一七三番地一外の土地に、敷地面積四六九・三四平方メートル、戸数二七戸の高層分譲マンション建設(本件マンション)を計画し、一九九三(平成五)年四月三〇日に建築確認(変更)を受けた。被告大都工業はその工事施工者である。

2 本件マンションの周辺地域は、土地計画法上の商業地域である。

3 被告らは、一九九三(平成五)年八月から本件マンションの建設工事(以下、「本件工事」という。)に着工し、一九九四(平成六)年八月中に完成した。

二  争点

1 本件工事による被害

(原告らの主張)

(1) 被告らは、土留、土木工事において、ユンボで敷地全体にわたって基礎を約三メートル掘削したが、その際のユンボによる騒音、振動のため、原告橋本は、自宅(以下、「橋本宅」という。)における経理、事務作業が、原告野崎は、自宅(以下、「野崎宅」という。)における設計、企画作業ができず、また、原告橋本の子供らも橋本宅で勉強ができなかった。

(2) 型枠工事の杭打ち、及びバラし時の騒音のため原告らは(1)と同様の被害を受けた。

(3) コンクリート工事の際のポンプ車による生コンの圧送の騒音のため、原告らは(1)と同様の被害を受けた。

(4) 養生シートの固定が不十分であったため、夜中に風のため「ブルブルブル」と凄まじい騒音を立て、このため原告橋本及びその家族の睡眠がしばしば妨害され、原告橋本の子供は夜の勉強も妨害された。

(5) 鉄筋工事のガス溶接の際の騒音のため原告らは(1)と同様の被害を受けた。

(6) 下水道、上水道工事が夜を徹して行われたので、原告両名及びその家族の睡眠が妨害され、寝不足のため仕事にも差し支えた。

(7) コンクリートの修正(ハツリ)工事が、ブレーカーを使用してなされたため、ブレーカーとハツられるコンクリートの騒音のため、原告らは(1)と同様の被害を受けた。

(8) 養生シートをはずした際、粉塵が大量に橋本宅に飛散し、その掃除に多大の労力を要した。

(9) 本件マンション建築工事の騒音により原告橋本所有の柴犬が半狂乱状態になり、格子戸、くぐり戸、逃避柵を損壊したので、この補修として、格子戸二枚に金一六万円、くぐり戸一式に金一八万円、逃避柵二枚に金三万円の各修理費用を要する。また、右柴犬が騒音に対し異常反応するようになってしまったことによる柴犬の価値滅少の損害は金一〇万円を下回らない。

2 工事完成後の被害

(1) 日照、通風の遮断による被害

(原告橋本の主張)

橋本宅は、西側及び南側に向かって窓が開口しているが、本件マンション建設により、橋本宅の西側及び南側からの日照が遮断され、寒さや湿気のため健康で快適な生活に著しい支障を来たしている。

(被告らの主張)

本件マンションは住居地域に適用される日影規制の要件も満たしており、この地域は商業地域で日影規制はない。

(2) 本件マンションによる騒音の増大

(原告らの主張)

本件マンションの建設により、本件マンションが「壁」となって、国道一号線及びそのガード下の通過車両や京阪電車の騒音が反響し、特に原告ら宅の夜間騒音が増大し、原告ら及びその家族の夜間における安眠や勉強、仕事が阻害されている。特に夜間においては、野崎宅においては、中央値において建設省の環境基準(夜間五〇ホン)を大きく上回る七〇ホンの騒音が、橋本宅においては五九ホン、電車通過時においては九〇ホンの騒音が発生している。

(被告らの主張)

マンションが壁になって騒音が反響することは争う。

(3) プライバシー侵害

本件マンションの一階駐車場及び東側バルコニーから、橋本宅の一階及び二階の西側窓を通して中が丸見えの状態であり、原告橋本及びその家族のプライバシーの侵害が著しい。また本件マンションの西側バルコニーから野崎宅の南側窓を通して中が丸見えの状態であり、原告野崎のプライバシーの侵害が著しい。

(被告らの主張)

否認する。

(4) 風害

(原告らの主張)

本件マンションによる風害のため、一九九四(平成六)年五月八日、野崎宅の二階の屋根の軒先瓦が飛んで前面道路に落下し、同日原告橋本宅ベランダの植木鉢が横転し破損した。

3 被告らの責任

(原告らの主張)

本件マンション建設行為は、原告らに受忍限度を超える損害を与えており、権利濫用にあたるものとして連法性を帯び、不法行為責任を負う。

4 損害額

(1) 原告橋本の損害

前記1及び2による精神的損害の慰謝料は、原告橋本においては金三〇〇万円を下回らない。

前記2の(2)の本件マンションによる騒音被害を受忍限度内に抑えるためには、二重窓に改装する他なく、それに要する工事費用は一階及び二階南面と西面の改装工事に金一六五万円を要する。

弁護士費用としては金五〇万円を下回らない。

(2) 原告野崎の損害

原告野崎は以下の損害の一部請求として第一項(請求)記載の金額の支払いを求める。

前記1及び2による慰謝料金一〇〇万円

二重窓への改装費用(野崎宅一階及び二階南面のみ) 金四〇万八〇〇〇円

風害による瓦の補修費用 金二万九九七三円

騒音被害調査費用 金五万〇六七六円

弁護士費用 金一五万円

5 ブラインド設置費用相当の損害(予備的請求)

(原告らの主張)

仮に前記2の(3)記載のプライバシー侵害に関し本件マンションに目隠しを設置することができないときは、原告両名宅において次のとおりブラインドを設置するしかなく、それに要する工事費用は次のとおりである。

(1) 原告橋本の損害

橋本宅の西面の一階の二か所及び二階の三か所の計五か所のブラインド費用として金一九八万二五〇〇円

(2) 原告野崎の損害

野崎宅の二階南側寝室部分の費用として金八万五五九三円

(被告らの主張)

ブラインドの設置の必要性はないし、金額も高額すぎる。

第三  判断

一  本件工事による被害

《証拠略》によれば、本件工事中に大津市の職員が本件工事の騒音を測定したが、その測定回数は、連続壁工事中の一九九三(平成五)年八月一九日及び同月二六日、掘削工事中の同年九月二〇日、コンクリート打設工事中の一九九四(平成六)年三月七日及び同年四月八日の合計五回であったこと、「大津市の生活環境の保全と増進に関する条例」及び同条例施行規則における騒音の規制基準は、バックホー等の掘削機械を使用する作業及びコンクリートポンプ車を使用するコンクリート打設作業においては、建設作業の場所の敷地の境界から三〇メートルの地点で七五ホンと定められているところ、右の各測定においては、いずれも右の規制基準内であったことが、それぞれ認められる。したがって、仮に、争点1記載の原告ら主張の騒音があったとしても、それらは受忍限度内の騒音と解するべきであり、他の証拠によっても、工事中の騒音が受忍限度を超えたものであることを認めることはできない。したがって、争点1の(1)ないし(5)並びに(7)及び(9)の被害に対する損害賠償請求は理由がない。

また、《証拠略》によれば、下水道、上水道工事は大津市が行った工事であることが認められるから、争点1の(6)記載の工事は被告らによる不法行為とは認められない。また、争点1の(8)の養生シートをはずした際の粉塵については、それによる被害の立証は原告らの供述及び陳述書だけであり、その被害の立証は不十分である。なお、原告橋本は同原告の家族の被害による損害も主張しているが、家族の損害はその家族自身が請求すべきものであり、原告橋本の損害とはいえない。

二  工事完成後の被害

1 日照、通風の遮断による被害

《証拠略》によれば、橋本宅は午後二時ころから日影になることが認められるが、建築基準法五六条の二によれば、第一種住居専用地域における最も厳しい規制でも、冬至日の午前八時から午後四時までのうち二時間までの日影時間は許容しているから、橋本宅の日影はこの制限内であると認められ、また、争いのない事実1によれば、原告らの居住地は商業地域であって日影規制はないことが認められるから、本件マンションによる日影の被害も受忍限度内と解することができる。

また、橋本宅の通風悪化による被害は、本件マンションによりビル風が強く吹くようになったという原告らの主張とも矛盾するから、その被害は認めることはできない。

2 本件マンションによる騒音の増大

(1) 橋本宅の騒音

《証拠略》によれば、本件マンション完成間近の一九九四(平成六)年七月八日午後三時一二分から同時四九分の間と、同年七月一一日の午後一〇時三〇分から午後一一時一八分までの間、橋本宅の西側窓付近地点(別紙第三図面記載5地点)と、橋本宅の北側に隣接する高架の国道を挟んだ橋本宅と対称の位置に存する地点(同図面記載A地点)とにおいて騒音の測定をしたこと、A地点は、右高架の国道や京阪電車の線路からの距離はほぼ5地点と等しい地点であること、第一回目の同年七月八日の測定の中央値は、5地点及びA地点とも六二ホンであり、第二回目の同月一一日の測定の中央値は、5地点が五九ホンであり、A地点が五八ホンであったこと、ところが、各地点での測定の最高値を見てみると、A地点では、一回目の測定で、京阪電車が通過した時(二回)に八三ホンを記録し、第二回目の測定でも京阪電車が通過した時(二回)に八二ホンを記録しているのに対し、5地点では、一回目の測定では、京阪電車の通過の時(三回)に九一ホン、八九ホン及び八五ホンを、第二回目の測定でも京阪電車の通過時(二回)に九〇ホン及び八六ホンを記録していることが認められ、この二地点の測定値は中央値では大差がないものの、電車の騒音については、橋本宅の前の5地点がA地点よりもはるかに大きな騒音となり、特に第二回目の測定においては、深夜に九〇ホンに達する大きな騒音が生じていることが認められる。

そして、右両地点の騒音状況は5地点の前に本件マンションという高層ビルが存在すること以外に大差がないことに照らすと、電車の騒音につき5地点がA地点よりも大きくなる原因は、本件マンションが電車の騒音を反射するためであると考えざるを得ず、右の測定値によれば、その騒音は耐え難い大きさであり、しかもその騒音は電車の通過により生じるものであるから恒常的な騒音というべきであり、したがって、本件マンションの建築主である被告森本興産は、騒音を増大させたことにつき不法行為責任に基づく損害の賠償義務を負うと解するべきである。なお、被告大都工業は本件マンションの建築だけに関与したものであるから、完成後の本件マンションによる被害については責任を負うとは解せられない。

(2) 原告橋本の損害額 認容額金七〇万三四五一円

右の騒音被害を受忍限度内に抑えるためには、橋本宅の窓を二重窓に改装する方法が相当と考えられるが、《証拠略》によれば、橋本宅の間取りのうち、京阪電車の線路に面した西側または南北側に窓があってかつ騒音を防止すべき部屋は、一階は、台所、原告橋本夫婦の寝室である北端の六畳和室、二女の部屋である八畳洋間、事務所、二階は長男の寝室である七畳洋間であり、騒音を防止すべき窓は六か所と認められる。なお、一階中央の六畳和室及び二階一〇畳和室はどのような使用をしているか不明であるから騒音対策が必要であるとは認められない。そして、右の六か所の窓の大きさは不明であるが、そこに二重窓を設置する費用は、《証拠略》によれば、それに要するサッシ代金は、横一・八メートル、縦一・〇五メートルのサッシが四個分(金二九万九六〇〇円)、横三・六メートル、縦一・〇五メートルのサッシ二個分(金二四万七六〇〇円)の合計金五四万七二〇〇円が少なくとも必要となり、それらの取り替え費用及び諸経費は甲第一〇号証記載のそれらの金額(合計金三六万六五〇〇円)を右認定のサッシ代金で按分した金一五万六二五一円となり、以上の合計は右認容額となる。そして、被告森本興産は、騒音を増大させたことによる損害として、この金額を原告橋本に支払うべきである。

(3) 野崎宅の騒音

《証拠略》によれば、一九九四(平成六)年七月八日午後三時一二分から同日午後五時一〇分までの間、前述の5地点及びA地点を含めた本件マンション周辺の7地点で騒音の測定を行ったが、その中央値は五七ホンから六三ホンであり、野崎宅の南側窓付近地点(別紙第三図面記載3地点)の測定値も五八ホンであって、同時刻ころの5地点の六二ホンよりも低い値であるが、同年七月一一日の深夜である同月一二日午前〇時二二分から同時三五分までの間の3地点での中央値は七〇ホンであって、同時刻ころの5地点の五九ホンと比較しても極めて高い測定値が記録されたことが認められる。そして右各証拠によっても、野崎宅の前の3地点での測定値が七〇ホンという高い測定値となる理由は明らかではないが、《証拠略》によれば、本件マンション付近では東から風が吹くとその西側に吹き下ろしの風の流れが生じ、それが高架の国道の騒音を下方へ導くことが推認でき、その影響で右のような高い測定値が発生したと解するのが相当である。そうすると、その原因は本件マンションにあるというべきである。そして、《証拠略》によれば、本件マンション付近のような国道に面する商業地域においても、工事期間とは異なり日常の騒音については、夜間の騒音は六〇ホンが限度と認めるのが相当であり、野崎宅においては、気象条件によればその値をはるかに超えた騒音が生じることが認められる。

したがって、本件マンションの建築主である被告森本興産はその損害を賠償する義務があるというべきである。

(4) 原告野崎の損害額 認容額金四〇万八〇〇〇円

したがって、野崎宅も橋本宅と同様、二重窓の工事を要すると認められるところ、《証拠略》によれば、野崎宅の間取りのうち騒音を防止すべき部屋は、仕事をする一階居間と寝室である二階六畳和室であり、そこに二重窓を設置する費用は、《証拠略》によれば、サッシ代金、取り替え費用及び諸経費は合計金四〇万八〇〇〇円を要すると認められる。被告森本興産は、原告橋本に対すると同様この金額を損害として原告野崎に対し支払うべきである。

3 プライバシー侵害

(1) 橋本宅のプライバシーの侵害

《証拠略》によれば、本件マンションの一階駐車場から橋本宅一階の窓の中を覗き込むことができることが認められるが、一階の窓は塀等がなければ外部から中が見えるのが通常であり、また橋本宅は従前から京阪電車の線路に面しており電車から一階窓の中が見えていたはずであるから、本件マンションによって新たにプライバシーが侵害されたとは認められない。しかしながら、《証拠略》によれば、本件マンション三階及び四階からは、橋本宅の二階の窓の中が一方的に覗き込めることが認められ、これは新たなプライバシーの侵害と認めることができ、このようなプライバシーの侵害も、他人の権利を違法に侵害するものとして、不法行為と解することができる。

ところで、このプライバシー侵害を防止するため、原告らは本件マンションのバルコニーに目隠しを設置することを請求しているが、不法行為による損害賠償の方法は原則として金銭によるべきであるから(民法七二二条一項)、右請求は認められない。そして、右のプライバシー侵害を防止するには、本件マンションに目隠しを設置する方法よりも、予備的請求である原告ら宅の窓にブラインドを設置する方法がより確実で安価であると考えられるところ、プライバシー侵害による損害はそのブラインド設置費用の額と解するのが相当である。

(2) 原告橋本の損害額 認容額金一一万〇八〇〇円

《証拠略》によれば、橋本宅の二階の窓にブラインドを設置する費用は、少なくとも、ブラインド代金が金九万八八〇〇円、施工費が金一万二〇〇〇円(甲第三八号証記載の施工費金三万六〇〇〇円を右ブラインド代金で按分した金額)、合計金一一万〇八〇〇円を要することが認められる。

(3) 野崎宅のプライバシー侵害

《証拠略》によれば、本件マンションの西側の外部廊下の一部から野崎宅の南側窓が見えるが、その廊下から野崎宅の右窓まで相当距離があるうえ、本件マンションの右廊下と野崎宅の右窓とを結ぶ直線と同窓の面との角度は深い鋭角であり、ほとんど同窓の中を覗き込むことはできないことが認められ、本件マンションによって原告野崎のプライバシーが侵害されているとは認め難い。

4 風害

《証拠略》によれば、本件マンションのような高層のビルの風下には、そのビルの高さと同程度の距離の範囲において、風速が一、二割増加する現象が生じること、その風は、地表から上方に向かって渦巻く風等複雑な吹き方をすることが認められる。しかし、《証拠略》によっても、野崎宅の屋根瓦が落下した時の風向きや風力などは全く不明であり、その瓦が本件マンションが原因によるものと認めるには立証が不十分である。したがって、これに関する原告野崎の主張は認められない。

5 慰謝料

認容額 原告橋本につき金三六万円

原告野崎につき金一八万円

以上のとおり、原告橋本には本件マンションによる騒音の増大とプライバシーの侵害の被害を受けており、原告野崎は騒音の増大の被害を受け、その被害は本件マンション建築後約三年間継続してきたから、それにより原告らには精神的損害が生じていると認められ、これにつき被告森本興産はその損害賠償として慰謝料の支払義務を負うと解するべきである。そして、前記2及び3に述べたとおり、橋本宅の騒音の被害は主に電車が通過する時であること、野崎宅の騒音の被害は気象状態により左右されるものであることなどに照らすと、慰謝料の額は、右認容額が相当と認められる。

6 原告野崎の測定費用 認容額金五万〇六七六円

前述のとおり、本件マンションによる騒音についての損害賠償の請求は、その一部は理由があるから、その騒音の測定に要した費用も本件不法行為と相当因果関係のある損害と言うことができ、《証拠略》によれば、その費用は金五万〇六七六円と認められる。

7 弁護士費用

前記認容額や本件訴訟の審理状況などを考慮すると、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は、原告橋本において金一二万円、原告野崎において金六万円が相当である。

三  結論

本件記録によれば、本件訴状が被告森本興産に送達されたのは一九九五(平成七)年一月六日であることが明らかである。

以上により、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡 文夫)

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